酒井 ももこ
地図表示方式と街路構成の組み合わせが自己位置把握に及ぼす影響
本研究では、地図アプリケーションにおける地図の向きと、街路形状や建物配置が、ユーザーの自己位置把握の所要時間に与える影響を検証した。実験では、ヘッドマウントディスプレイ(以下、「HMD」)を用いて、様々な形状の街路を異なる地図表示方式で提示した際のタスク所要時間と注視データを測定した。実験参加者にはHMDを通じて、実在する交差点をモデル化した街路を提示した。視界の右下には、スマートフォンの地図アプリケーションを模した各地点の地図を表示し、特定の建物を赤く強調した。実験参加者には、この地図をもとに特定の建物の実際の位置を見つけ、その方向を向くというタスクを課した。タスク遂行中の注視特性を、HMDのアイトラッキング機能を用いて計測し、実験参加者の地図読解プロセスを評価する指標とした。
実験1では、体の動きに合わせて回転するヘディングアップ地図、向きが常に固定されているノースアップ地図、自由に回転させることができるコントロールアップ地図の3種類の地図表示方式と、5種類の街路構成を組み合わせた計15回の試行を実施した。分析の結果、地図表示方式間で統計的に有意な差が見られ、コントロールアップ地図は他の地図表示方式と比較して、所要時間が有意に長くなることが確認された。ヘディングアップ地図とノースアップ地図の間には顕著な差は見られなかった。また、直角に道路が交差するシンプルな街路形状の地点では所要時間が長くなり、複雑な街路構成の地点では所要時間が短くなることが示された。
実験2では、街路構成の特性を道路形状と建物形状の二つの要因に分離し、それぞれがどの程度地図読解タスクに影響を与えているのかを検証した。ヘディングアップ地図とノースアップ地図の地図表示方式2種類と、街路構成4種類を組み合わせた計8回の試行を実施した。分析の結果、建物形状が複雑で道路形状が単純な地点でヘディングアップ地図を使用すると、所要時間が短くなることが示された。また、建物形状が単純な地点でノースアップ地図を使用すると、所要時間が長くなる傾向が見られた。