杉山

住宅内要素が車いす使用者とその介助者の身体活動量へ与える影響

住宅内における車いすの走行を妨げる要素として、廊下幅や床段差が挙げられる。本研究では、車いす使用者とその介助者の身体活動強度に与える影響を、2種類の被験者実験(実験Ⅰ、実験Ⅱ)から明らかにする事を目的とする。

実験Ⅰでは、L字廊下の廊下幅を変化させ、車いすの自走と車いすの介助における身体活動強度がどのような影響を受けるのかを分析する。実験Ⅱでは、床段差の高さの変化や段差へのスロープの設置の有無が、車いすの自走と車いすの介助における身体活動強度に与える影響を分析する。

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日々の適度な運動は、生活の満足度を高めるとともに体力を維持する点からも重要である。特に一日のうちの多くを過ごす住宅内において一定の活動量を確保することは、高齢者や身体障碍者の健康維持にとっても良い影響をもたらす。特に身体障碍者については、要介護のレベルによるものの、生活で必要な部分を介助しながら障碍者自身ができる活動は維持し生活能力を落とさないようにすることが、心身の健康や本人の尊厳にとって大切である。

そのためには、住宅内での活動の妨げとなるような物理的・心理的バリアを丁寧に取り除く必要がある。例えば、足の不自由な高齢者が布団をベッドに、床座を椅子座に変更することで、立ち座りの負担が減り活動的になる。住宅内での負担を減らすことで活動意欲が沸き、逆にストレスなく持続的に活動量を増やせるような住環境を提案できる。

住宅内に存在する物理的・心理的バリアを少なくすることは、高齢者や身体障碍者本人だけでなく介助する側にとっても重要な意味を持つ。単に介護を増やすのではなく、本人の力で無理なく活動を増やすこと、またそれを続けやすくすることが双方の負担を減らすひとつの糸口となる。さらに介助者の身体的負担を減らすことは、介助に至るまでの心理的ハードルが下がるだけでなく、被介助者にとっても「手伝ってもらっている」という心苦しさも和らぐ。結果として、介助者による細かな介入の頻度が増え、被介助者の行動範囲も広がり、生活の満足度の向上につながる。

様々な生活動作に伴う身体的負担を評価する指標としては身体活動強度がある。これは運動強度を示す単位であり一般的にMETs(metabolic equivalents)で表すが、安静時の酸素摂取量を基準として何倍のエネルギーを消費したかを示すものである。厚生労働省がまとめたMETs値一覧表には、キッチンでの料理や布団の上げ下ろしに至るまで、様々な生活動作に関するMETs値の記載がある。しかしながら、高齢者や身体障碍者および介助者の生活動作に対してはデータが不足している。

本研究では、このようなデータを補うため、特に車いすの移動に伴う身体活動強度を計測する。METs値一覧表3)の車いすに関連する動作は、車いすを押しながらの歩行がMETs値で「3.8」と記載されているのみで、段差の乗り越えや狭い通路での切り返しにおける計測データはない。

高齢者や身体障碍者およびその介助者の生活動作にかかわる身体活動強度のデータを蓄積していくことで、バリアフリー化に向けた住宅改修の検討に役立つ可能性がある。また、適切な改修により健康及び体力維持に効果があり、介助者の負担も低減することができれば理想的である。健康寿命が延び、ヘルパーを頼む頻度が減少するなど将来的には経済効果(介護費用の減少)も期待される。

研究成果

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