長倉 大也

垂壁の寸法と調節方向が垂壁奥の空間の奥行き感に与える影響

既に高橋らの研究によって、垂れ壁の寸法や配置が、垂れ壁の持つ空間分節効果に影響を及ぼすことが明らかにされている。この研究の中で高橋らは、観測位置から垂れ壁までの距離や、垂れ壁の調節方向が、垂れ壁のもつ空間分節効果に影響を及ぼす重要なファクターである可能性を示している。そこで本研究では、垂れ壁の寸法と垂れ壁と観測位置との距離の組み合わせ、および、垂れ壁の寸法と垂れ壁の調節方向の組み合わせが、垂れ壁の奥の空間の奥行感に与える影響に着目する。近年では、建築面積節約や時間効率の観点から、可動間仕切りによって用途を変更できるようなフレキシブルな内装の需要も高まってきている。特に教育施設やオフィス、コワーキングスペースといった空間では、可動間仕切りによるシームレスなゾーニング計画が進んではいるが、垂れ壁などによる空間分節に関する知見は少ない。

本研究では、垂れ壁の設置によってもたらされる緩やかな境界の認識が、垂れ壁の奥の空間の奥行感に与える影響を検証した。垂れ壁の配置位置や寸法が変化すれば、垂れ壁の奥に広がる空間を把握する際の視覚的情報の量も変化し、その空間に対する奥行き感に差が生まれるはずである。仮想環境技術を用いた被験者調整型の実験によって、垂れ壁の寸法や観測位置から垂れ壁までの距離、調節する可動壁の初期位置など、それぞれの実験条件の変化が、垂れ壁の奥に広がる空間に対する奥行き感に与える影響を定量的に分析した。

分析の結果、以下の知見を得た。1)可動壁の調節開始位置が基準位置よりも奥である場合、垂れ壁の奥の空間の奥行きは実際より狭く知覚される。2)身長150cm台の被験者は垂れ壁の高さが1400mm(あき1600mm)以上の時より、垂れ壁の高さが1300mm(あき1700mm)以下の時の方が、垂れ壁奥の空間の奥行きをより高い精度で把握できる。3)可動壁の位置を調節する際に、可動壁と床面のエッジを注視するグループは垂れ壁の高さが1400mm(あき1600mm)以上の時より、垂れ壁の高さが1300mm(あき1700mm)以下の時の方が垂れ壁奥の空間の奥行きをより高い精度で把握できる。

本研究では被験者の視線情報として中心視野のみを取り扱っているが、実験結果から周辺視野についても言及の余地があると言える。また、実験を実施した被験者の身長に偏りがあったことは否めず、今後、不足している身長群のデータを補完する必要がある。

高橋勇人,吉岡陽介:垂れ壁の寸法や配置が仮想空間における空間中心位置の把握に与える影響,日本建築学会計画系論集, Vol.81, No727, pp.1905-1915, 2016

解説動画:垂壁の寸法と調節方向が垂壁奥の空間の奥行き感 14min

研究成果

  • 長倉 大也: 垂壁の寸法と調節方向が垂壁奥の空間の奥行き感に与える影響, 2020年度 千葉大学大学院 工学研究院 修士論文

  • 長倉大也, 吉岡陽介: 観察点から垂れ壁までの距離及び垂れ壁の寸法が垂れ壁の 奥の空間の奥行き感に与える影響,日本建築学会大会(2020)

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