盧悦童
建築前面に配置した水盤の物理的特性が 在室者の生理的リラックス状態に与える影響
水盤は、公共建築や都市空間において、視覚的・心理的快適性の向上を目的として設けられる代表的な水景要素である。水辺環境はストレス低減や回復効果に寄与する可能性が指摘されている一方で、水面の動きや波の大きさ、噴水配置といった視覚的特性によっては、刺激が過剰となり、必ずしも肯定的な心理・生理反応をもたらさない可能性がある。すなわち、水盤がどのような条件においてリラックス効果を発揮するのか、その判断には未だ不明な点が多い。
本研究では、仮想環境技術および皮膚電位計を用いた実験を通じて、水盤の視覚的特性が在室者の生理的リラックス状態に及ぼす影響を検証した。具体的には、皮膚電位水準(SPL)を指標として、水盤表現の違いがもたらす生理反応を定量的に評価し、回復効果が期待される水盤条件を明らかにすることを目的とした。
実験Ⅰでは、水盤の有無を操作し、建築前面に水盤を配置した条件とアスファルト条件との比較を行った。その結果、水盤の存在そのものが必ずしもリラックス状態の向上に寄与するわけではなく、本実験条件下では、アスファルト条件において相対的に高いリラックス状態が示される結果となった。
実験Ⅱでは、水盤上に生じる波の大きさを段階的に操作し、その違いが生理的リラックス状態に及ぼす影響を検討した。その結果、波が小さい条件ほどSPLが低下し、相対的に高いリラックス状態が示される傾向が確認された。これは、水面の過度な動きが刺激として作用し、リラックスを阻害する可能性を示唆するものである。
実験Ⅲでは、実験Ⅱの結果を踏まえ、比較的高いリラックス状態が示された微波条件を基準とし、噴水の配置間隔を操作した条件下での生理反応を分析した。その結果、配置間隔の違いによる統計的有意差は認められなかったものの、いずれの条件においても安定したリラックス状態が確認された。
以上の結果を総合すると、水盤の有無そのものよりも、水面の動的特性、とりわけ波の大きさが在室者の生理的反応に大きく影響することが示された。すなわち、過度な動きを伴わない穏やかな水面表現が、生理的リラックス状態の促進に寄与する可能性が高いと考えられる。また、本研究は、水景要素の設計において、視覚的魅力のみならず、生理的影響を踏まえた設計指針の必要性を示唆するものである。今後は、被験者条件の拡張や視覚以外の感覚要素を含めた検討を通じて、水環境がもたらす回復効果の理解をさらに深化させる必要がある。