今岡 勇人
屋内通路の天井に設置した吊り下げ標識およびライン標識が経路探索の所要時間に与える影響
本研究は、屋内通路に設置された案内標識の形態が経路探索の所要時間に与える影響を検証したものである。
駅や空港などの大規模公共空間の複雑化に伴い、利用者を円滑に誘導する案内標識の重要性が高まっている。現在主流の天井吊り下げ標識は情報が断続的であり、利用者は次の標識が現れるまで情報を短期記憶に保持しなければならず、認知的な負荷がかかることが既往研究で指摘されている。一方、床面のライン標識は連続的な誘導が可能だが、混雑時には他者の足元に隠れて視認性が低下するという課題がある。そこで本研究では天井ライン標識に着目した。人間の視線特性に関する既往研究によれば、歩行者の視線は上方領域に偏る傾向があり、天井設置の標識は視認性が高く遮蔽されにくいという利点がある。
本研究では、仮想空間上に構築した通路を用いて実験参加者に経路探索を行わせ、天井ライン標識と天井吊り下げ標識が経路探索の所要時間に与える影響を検証する。得られた結果の定量的な分析により、案内標識の形態が利用者の探索行動に及ぼすメカニズムを明らかにし、屋内空間における効果的な案内標識の計画・設計に資する知見を得ることを目的とする。
実験はヘッドマウントディスプレイを核とする没入型仮想環境技術を用いた。実験参加者はスタート地点から指定されたゴールまでの経路探索を行い、その所要時間を計測した。この手法を用いて実験1・実験2を行った。実験1では「標識の種類(天井吊り下げ・天井ライン)」「出口数(3つ・5つ)」「広告(有・無)」の3要因が経路探索の所要時間に与える影響を調査した。実験2では、実験1の要因の1つである「広告」を「群衆(5人・20人)」に置き換え、より情報過多および視覚的遮蔽が加わる環境で同様の実験を行った。
結果として、「天井ライン標識」を用いた場合の方が「天井吊り下げ標識」よりも経路探索の所要時間が有意に短かった。また、「天井ライン標識」を用いた場合の標準偏差はいずれの実験でも「天井吊り下げ標識」を用いた場合より小さかった。一方で「出口数」や「広告」、「群衆」が所要時間に与える有意な影響は、いずれの実験でも認められなかった。本実験では両方のタイプの標識が天井に設置されていたため、上方領域の視認性の高さが「出口数」や「広告」、「群衆」などの視覚情報の影響を緩和し、所要時間に影響が表れなかった可能性がある。
天井ライン標識は従来の天井吊り下げ標識に比べ、出口数や広告、群衆といった環境要因に関わらず経路探索の所要時間を短縮させる影響が強く、個人差無く安定した効果が得られることが示唆された。この知見を拡張することで、複雑化した通路や混雑した環境でも利用者を効率的に誘導することができる案内標識の設計をすることができるだろう。