高橋 直輝

曲線通路の形状が歩行者の方向判断に与える影響

ある場所から別の場所へ効率的に移動するためには、目的地の方向や自分自身の向きを正しく見積もる必要がある。個人が持つ能力としての「方向感覚」については、これまで数多くの研究が行われてきた。例えばDavidらは、性格や年齢によって方向感覚の能力に差があることを示している。特に性別については、竹内やEdwardらが、女性よりも男性のほうが、自分自身の方向感覚を高く評価する傾向にあることを示している。また芳賀は、過去に経験した経路探索の失敗の頻度が、方向感覚の自己評定に負の影響を与えていることを示している。さらに、八木らやKatoらの研究では、方位の認知や方向の回転に関する能力を計測し、その能力が優れている被験者はそうでない被験者と比較して、経路の学習能力が高いことが示されている。

一方で、建築計画において、歩行者を目的地まで効率的に移動させるためには、「方向判断」のずれが生じにくい空間を設計する必要があると考える。空間の形状が方向判断に与える影響を検証した研究にもいくつかの事例がある。山本陽二郎らは、ディスプレイ上で、被験者に階段を降りて地下空間へ向かう状況を体験させた。その結果、階段を降りる時の進行方向の回転が大きいほど、被験者の方向判断が阻害されることが明らかになった。山本直英らの研究では、被験者に曲線通路を歩行させ、回転角45度と67.5度の地点において歩行中の方向判断の変化を分析している。実験の結果、曲線通路の曲がり具合の大きさは過小視され、方向判断においては前後左右の参照軸が用いられることが示された。またSadallaらは、15度から165度までの曲がりを一つ含む経路において、その前後での被験者の方向判断の変化を計測した。その結果、90度の曲がりが最も方向判断の変化量が少ないことがわかった。

このように、通路の回転角が方向判断に与える影響について検証した事例はいくつかあるが、曲率半径といった回転角以外の要素と方向判断の関係について検証した事例は見当たらなかった。そこで本研究では、曲線通路の形状における様々な要素が方向判断に与える影響について検証を行うこととした。実験結果の定量的な分析を通して、方向判断の変化が生じにくい環境を設計するための資料を得ることを本研究の目的とする。

本報の一連の実験で得られた知見を以下に示す。


研究成果

解説動画:曲線通路の形状が方向感覚に与える影響(修士論文) 

解説動画:曲線通路の曲率半径が方向感覚に与える影響 (卒業論文)