米澤 健太

経路幅が人間の距離知覚と視覚に与える影響 

本研究では、経路幅の変化が人間の距離知覚にどのような影響を与えるのかを検証した。既往研究において距離知覚に影響することが示唆されている環境要因はいくつかある。そのの中でも、経路の視覚的イメージが大きく変化する経路の形状、特に「経路幅」に着目した。この経路幅と距離知覚の関係、および、経路を視覚的に認知するための注視特性の変化を検証することで、歩行空間のデザインや動線計画に役立つ知見を得ることを本研究の目的とする。

日常生活の中で目的地までの経路を歩行する際、経路の環境や形状によって、同じはずの距離を長く感じたり、短く感じたりしたことはないだろうか。経路の距離を、実際よりも長く感じる、または短く感じるといった、人間の距離知覚に関する研究はこれまでにも数多く行われてきた。例えば、片山らの一連の研究では、「空間に広がりのある経路」の距離は、実際の距離よりも短く知覚されることを指摘している。一方で、Sadallaらの一連の研究では、「曲折や交差点の数が多い経路」の距離は、実際の距離よりも長く知覚されることが報告されている。このような人間の距離知覚への影響には、歩行する経路から得る視覚情報やそれを処理するための脳の労力が関係することが推測されている。前述のSadallaらの研究では、経路の中の曲折や交差点が多いほど、安全確認や信号に対する注意が増え、経路を歩行するために視覚から得る情報が多くなり、その情報を処理するために脳の労力が増えるため、経路の距離を長く感じると考えられている。しかし、これらの既往研究では、実際の建築物を含む街路空間を対象としていたため、様々な環境要因が混在しており、1つの環境要因を特定して、その影響のみを明確にすることは困難であった。そこで、仮想環境技術を用いることによって1つの環境要因に絞った実験空間を作り出すことができ、特定の環境要因による距離知覚と視覚情報への影響を明確にすることができると考えた。

仮想環境内に構築した直線状の経路空間を、被験者自身の足踏みによる疑似的な歩行をとおして体験させる実験を行った。実験結果をまとめる1)距離知覚への影響に関しては、経路幅を広くした場合にはその経路を短く知覚し、狭くした場合にはその経路を同程度に知覚する傾向が示された。2)経路幅の変化が注視位置に影響を与えることが明らかになり、距離を短く知覚した被験者の注視位置が経路の奥に移動する傾向が示唆された。3)距離を短く知覚する被験者において、経路幅による注視位置の変化がより顕著に表れることがわかった。

今後は、経路幅の効果が変化する閾値の存在を探るために経路幅の実験条件を増やして検証するとともに、経路幅以外の環境要因にも発展させていくことで、経路歩行中の距離知覚と注視特性の関係性について追究していきたい。

大野隆造, 片山めぐみ, 小松崎敏紀, 添田昌志: 歩行動作と連動する視環境シミュレータを用いた距離知覚に関する研究, 日本建築学会計画系論文集, Vol.66,No.550, pp.95–100, 2001.|片山めぐみ, 大野隆造, 添田昌志: 歩行移動時の距離知覚に及ぼす経路の形状と周辺    環境の影響,日本建築学会計画系論文集, Vol.69, No.580, pp.79–85, 2004. 6|Sadalla, E. K.,Staplin, L. J.,Burroughs, W. J. : Retrieval Process in Distance Cognition, Memory&Cognition, 7, 291-296, 1979|Sadalla, E. K.,Megal, S. G. : The Perception of traversed distance, Environment&Behavior, 12, 167-182 , 1980

解説動画:経路幅の変化が距離知覚と注視特性に与える影響

解説動画:経路歩行時の距離知覚と注視位置に影響を与える経路幅の閾値

解説動画:Effect of Path Width on Human Distance Perception and Gaze Position During Walking

解説動画:経路幅が人間の距離知覚と注視位置に与える影響 米澤健太 9min 

研究成果

修論梗概_米澤健太.pdf
16T0048U 米澤健太.pdf
経路幅と距離知覚_情報シンポ.pdf