直井 彩乃

経路側方の色彩パターンが歩行速度に及ぼす影響

都市の歩行空間において歩行速度に変化をもたらす環境要因には、歩行経路の「幅」や側壁の「高さ」など、さまざまなものがある。 特に、歩行中に得られる視覚情報の流動パターンは、歩行速度を変化させる最も重要な要因の一つであり、これまで多くの研究が行われてきた。しかしながら、色彩のパターンやその流動によってもたらされる視覚刺激と歩行速度との関係を集中的に検討した研究は少ない。

本研究では、没入型仮想環境技術を用いた被験者実験によって、歩行経路の側方に配されたテクスチャの大きさや色彩パターンが、歩行速度にどのように影響を与えるのかを検証した。 これらの要因が引き起こす複合的な機序を理解することで、群集の操作や街路の魅力向上などに貢献できる建築計画的な知見を獲得することができると考える。

第一段階の検証では、壁面テクスチャの彩度や大きさ、さらに注視点を固定する目標の有無を操作することで、歩行速度への影響が見られるかを検証した。タイル状の色彩パターンが連続する歩行空間において、被験者の注視位置を固定した状態と固定しない状態で歩行実験を行った。その結果、特に注視点が固定されていない場合、カラフルな壁面テクスチャを用いた条件の方が、低彩度のテクスチャを用いた条件よりも歩行速度が速いことが有意に示された。なお、タイルの大きさを変数とした比較では有意差は見られなかった。

第二段階の検証では、2種類のテクスチャが歩行経路の途中のある地点で切り替わる条件を作成し、テクスチャの切り替わりの前後において歩行速度が変化するかどうかを検証した。その結果、テクスチャの切り替わりの後の歩行速度が、2種類のテクスチャの組み合わせの違いによって変化していることが有意に示された。

第三段階の検証では、歩行速度に影響を及ぼす色彩彩度の閾値の検証を行った。3色タイルを用いて、4段階の彩度の条件を設定し、白色壁の条件と比較した結果、R(7.5R 6/14)、G(10GY 8/14)、B(7.5PB 5/18)から速度の増加がみられることが有意に示された。 

研究成果