小林 航

通路上の柱や扉、交差点によって生じる凹凸に対する精神的負担の研究

曲がり角や交差点は、死角が生まれやすく歩行者同士の衝突の発 生しやすい危険な場所である。交差点の死角から接近してくる横断 者の存在に、衝突する直前でようやく気付き、驚くという状況は、誰しもが一度は経験したことがあるだろう。衝突する前に横断者の存 在に気付くことができればまだよいが、気付かないまま危険な速度 で激突すれば、きわめて重大な事故に繋がる可能性もある。 

屋外の道路では、交差点の見通しを確保することを目的に「隅切り」 を設置することが自治体ごとに定められている。一定の幅員未満 の道路が交わる交差点の角にある敷地では、敷地の出隅部分を二等 辺三角形状に空地にすることが義務付けられているのである。これによって、自動車や自転車、歩行者の衝突の危険性を低減させること や、車両や歩行者が曲がりやすくなるようにすることができる。 建築内の通路交差点にも、屋外道路の交差点と同様に「隅切り」を 施せば、十分な見通しが確保され、横断者を早期に察知できるように なり、衝突の危険性が低減できるだろう。

しかし、建築内部の出隅には、構造上必要な柱が隠されていることも多いため、隅切りを無闇に 大きくすることはできない。効果的な最低限の隅切り寸法を明らかにし、全体のバランスを考慮しながら適用する必要がある。 

曲がり角や交差点の形状と視認性との関係ついては様々な研究が 行われている。仙田らの研究 1)では、学校の廊下の曲がり角において 歩行者の歩行線形を調査することで曲がり角の形状を検討している。 小野らの研究 2)では、直角または隅切りのある隅角を歩行性、走行性、 視認性の観点から検討している。知花らの研究 3)では、交差点における隅切りの有無による視認性の違いを、歩行者と自転車との視認距 離の観点から検討している。 

しかし、曲がり角や交差点を通過する際の、「死角から横断者が出 てくるかもしれない」という不安や、横断者の存在に気づいた際の驚 きなど、精神的負担の程度を切り口に曲がり角や交差点の形状を検証した事例は見られない。 

本研究では、仮想環境技術と皮膚電気活動計測を用いた被験者実 験を実施することで、交差点出隅の隅切り深さと、出隅奥から現れる 横断者に対する精神的負担との関係を検証する。この検証を通し て、横断者の出現による精神的負担を低減し、かつ横断者の早期発見 に効果のある隅切りの大きさを探ることを本研究の目的とする。

研究成果

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