吉原 真由

仮想空間における効果的な経路案内サインの表示高さ

本研究では没入型仮想環境技術を用いた被験者実験により、経路の混雑具合に対して最も視認しやすく安定した歩行を可能とする経路案内の表示高さについて、人間の視覚特性に基づいた検証を行った。実験結果の定量的な分析を通し、拡張現実空間における情報表示手法の策定に活用できる知見を導出することを本研究の目的とする。

標識やサインを用いた現実空間での経路案内では、人や車両の通行を妨げないよう、表示する位置や高さなどに物理的な制限が設けられている。しかし、この高さは通行する人間や車両の通行の妨げにならないことを条件に定められたものであり、人間が最も視認しやすい表示高さであるとは限らない。それに対しウェアラブル端末は拡張現実の技術を利用し、情報を実空間に三次元的に重畳投影し表示することが出来るため、その表示位置に制約がなく、最も視認に適した位置に表示することができる。しかし、拡張現実を利用した経路案内について、その表示高さや位置に着目して検証をおこなった先行研究は少ない。

実験データの定量的な分析を通して、人間が経路案内のサインに従って経路を把握しながら歩行する際に、最も視認しやすく、安定した歩行を可能とする「サインの表示高さ」と「経路の混雑具合」の関係を検証した。検証の結果、以下のことが分かった。1)歩行中にはサインと障害物である人影を特に注視する傾向があり、双方の高さの差が小さくなるときに頭部の揺れが小さくなり視界が安定することが分かった。2)頭部の回転角の分析により、サイン表示高さ1.0m、1.8mのときに頭部の揺れは小さくなっており、視界が安定した状態に保たれていた。サイン表示高さ0m、2.5mのときは経路案内サインと人影の表示高さに差があるため、サインと人影を頭の向きを変えて交互に確認することにより、頭部が揺れ視界が不安定な状態になっていた。実験後に行ったヒアリングでも、サイン表示高さ0m,2.5mのときにはサインの方へ顔を向けないと視認できず、死角となる位置から急に人影が現れたように感じられ不安を感じたとの意見が多数見受けられた。3)注視位置座標の分析からは、人間は経路案内サインと経路上の目立つ障害物となる人影の双方を、優先的に注視する傾向が見られた。また人影を見ているときでも、サインと人影が重なる位置を特に注視していることが分かった。今回の実験条件においては、人影の頭の高さに最も近いサイン表示高さ1.8mのときに頭部の平均角度が最も水平に近く、頭部の揺れも比較的小さく、安全な表示高さであると評価された。

拡張現実型の経路案内サインについては、表示高さを経路上の目立つ障害物の高さと近づけるようにすることで、歩行者が注視位置を移す負担が少なくなり、より安定した視界を保ちながら歩行ができるようになるのではないかと考えられる。

解説動画:仮想空間における効果的な経路案内サインの表示高さ 9min

研究成果

修論梗概_吉原真由.pdf
16T0066K_吉原真由 .pdf
視認しやすい拡張現実型経路案内_情報シンポ.pdf