中村 恭久

経路側方の開放性操作が歩行者の視覚的情報探索の特性に与える影響

歩⾏者は何気なく歩いているときでも、周囲を見渡してみると、好奇心を掻き立てる多くの情報を取得することができる。本稿では、このような行動を視覚的情報探索と呼称する。特に、進行方向と正対していない経路側方を探索させることで、経路をより深く体験させることができるのではないかと考えた。歩行者の注意関心を惹く要素として、色や動きをもったものが考えられる。しかし、空間の形態自体にも視覚的情報探索を誘発する効果があるのではないか。本研究では経路側方の空間形態の中でも、遮蔽や開放の様子を示す開放性の操作が歩行者の視覚的情報探索の特性に与える効果を検証する。検証は没入型仮想環境技術を用いた3つの被験者実験により行った。

実験1においては、海辺の通路に連続してプリミティブなヴォリュームが配置された空間を設定した。視覚的情報探索の検証は歩行者の水平方向の頭部運動と注視運動を示す頭部水平角と注視水平角の分析に基づく。進行方向に対して直角に面を配置することで、経路側方に対する視覚的情報探索が誘発されやすいことが分かった。反対に、進行方向に平行して面を配置することは閉鎖的な印象を与え、経路側方に対する反応量を小さくすることが分かった。

実験2、3では実験1で用いた分析手法を応用し、吹き抜けに面したショッピングモール通路で視覚的情報探索を生起させる手法について考案する。ショッピングモールでの探索行動は利用者の満足度や滞在時間とも関係が深く計画段階から検討することが求められる。実験1で用いたヴォリュームの断面寸法を小さくし縦格子を連続的に配置することで、吹き抜けの開放性を操作した。実験で用いた通路は2階層の2階部分にあり、被験者は歩行しながら通路右側の吹き抜けを通して、反対側の店舗の様子や下層階を視認することができる。通路は19mのユニットを連続することで作られておりユニット開始から15mには吹き抜け、終盤4mには吹き抜けを跨ぐ橋が接続されている。

実験2では実験1と同様に、歩行中の頭部水平角と注視水平角を計測した。視覚的情報探索の生起は、その発生位置によって縦格子の影響、柱の影響、橋の影響により区分して検討することができる。縦格子の影響については、適切な寸法設定であれば、頭部水平角や注視水平角は縦格子がないときと比べてほとんど変化しなかった。縦格子が視界を連続的に遮り変化を作り出すことで被験者の興味を惹きつけたためであると考えられる。

実験3では、被験者に空間を自由に歩行させ主体的に空間を体験させることで実験2のデータを補完した。分析では、商業施設に必要とされる連続性と展開性について考察した。吹き抜け部分に設置された縦格子は、その見付幅を広くし間隔を狭くすることで吹き抜けに対する被験者の反応を抑える結果になった。ただ同時に、橋部分における頭部水平角や注視水平角の反応量は大きくなった。このことは、縦格子が空間の連続性を低下させる代わりに展開性を向上させていることを示唆している。寸法を調整することで、連続性の低下を最小限に抑えながら空間の展開性を向上させることも可能となると考える。

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研究成果